- タイトル:落語絵本シリーズその6「めぐろのさんま」
- ISBN:978-4-906379-93-1
- 発行:クレヨンハウス
- 作者:川端誠
※ネタバレを避けたい方は読まないでくださいませ。
「落語絵本 めぐろのさんま をよんで」
こどもに読み聞かせするのも、読みやすい本・読みにくい本とございまして。。。ちょうど良い本は何か無いかと図書館をふらりふらりと歩き回ること2件目で見つけたのが「落語絵本シリーズ」でした。もういくつかは読んでみましたが、これがとても読み上げやすいのです。落語絵本というだけに、オチのある展開は我が家の小学生男子もたいそうお気に召したようであります。
お気に召したといえば、この殿さま。庶民の食べ物の「さんま」をたいそう気に入られたようで、、、ただ一度だけ旅の途中で食べられたサンマの塩焼きに恋い焦がれるもあえなく失恋してしまうお話であります。
サンマの塩焼きといえば、平成のわれわれ庶民には決して安い食べ物ではないのですが、なぜ「安い食べ物ではない」のかというとサンマはある程度安くても肉の方が安くもあり、魚焼きグリルを洗うのは難儀でありますし、ではフライパンではどうかと申しますとやはりフライパンからは頭も尾も飛び出してしまうという。そして欠かせない大根おろしも大根は重たいから買うのを明日にしたいし、おろし金を使うのも洗うのもやはり難儀であり、、、なんとも平成の主婦泣かせの扱い辛い食材のひとつでありまた、食卓に上ることも少ないであろうと思われる、ある意味ぜいたく品であります。
そんな平成の食卓事情と江戸の殿さまの食卓事情は大いに違えども、共通するものは「サンマの塩焼きを食べたい」と言う強い思いであり、共感するところは多いのであります。おりしも秋。誰かが焼いてくれるなら食べたいのであります。
そんな「サンマ」でありますが、やはり殿と我々と共通するものは、「自分で作れ」というところにあります。どこでどのように入手しどのように調理しどのタイミングで食べるか。綿密な計画を立てて「いざ」という時を自分で作るしかないのであります。
そしてまた、一級品であっても一級になれなかったもの。殿さまにとっての「サンマ」は「本場でとれたもの」ではなく「めぐろのサンマ」であること。これも、現代のわれわれの感覚にとても近いものを感じます。それが「格別においしかった」のは、自分が手に入れたものであったからでありますし本当の食べ方であったからで、その時「おいしい」と感じたものこそが「本物」であって、他人が決められることではないのであります。
私はこの本を読んで、「もう一度食べたいもの」を思い出しました。それは「いつソースをかけたのだか分からないコロッケ」です。まだ幼稚園だった頃に母がコロッケにソースをかけたものを翌日くらいに食べたのです。これが本当においしかったのです。また食べたいけれども、レシピなんて分からないのです。
時間と偶然が重なり自分だけの唯一の物に出合えたのです。
この絵本を読んで、私は「殿さまは無知」であると笑うことはできませんでした。もう一度でも殿さまが「めぐろのさんま」を食べることができたなら、私も期待をもって生きていけると思いました。
もちろん、我が子は「アハハハ」と笑って聞いていました。でも、息子よ。そのうちに分かる。そのうちに笑えない自分に気づく。そのはずだよ。
おわり
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